
多くの中小企業で、経営者を悩ませるのが「社内の温度差」です。
現場は品質やこだわりを最優先し、事務方は効率やルール、数字を重視する。どちらも会社にとって欠かせない存在であるにもかかわらず、互いに不満や違和感を抱え、組織として噛み合わなくなってしまうケースは少なくありません。
「現場は融通が利かない」「事務は現場を分かっていない」
そんな言葉が社内で交わされるようになると、会社は少しずつ“分断された組織”へと傾いていきます。
なぜ部門間の温度差は埋まらないのか
この問題は、性格や世代の違いだけで生まれているわけではありません。
根本的な原因は、会社としての優先順位や価値基準が共有されていないことにあります。
現場は「品質を落とすくらいなら時間がかかってもいい」と考え、事務方は「ルールを守り、無駄を減らさなければ回らない」と考える。
どちらも間違ってはいません。しかし、
「この会社では、どちらを優先すべきなのか?」
「状況によって、どう判断を切り替えるのか?」
この基準が言語化されていないため、部門ごとに“正しさ”が分かれてしまうのです。
価値観の衝突が「不信感」に変わる瞬間
最初は小さな違和感だった温度差も、積み重なると次第に不信感へと変わります。
- 現場から見ると「事務は机上の空論」
- 事務から見ると「現場は非効率でルーズ」
こうした認識が固定化されると、情報共有は減り、協力関係は表面的なものになります。結果として、問題が起きても「自分たちの責任ではない」という空気が生まれ、組織全体の推進力が弱まってしまいます。
経営者が間に立ち続ける組織の限界
社内が一枚岩になれない組織では、最終的な調整役を経営者が担い続けることになります。
現場と事務の意見を聞き、落としどころを探し、最終判断を下す。その状態が続くと、
- 経営者が常に社内調整に追われる
- 部門同士が直接対話しなくなる
- 組織としての成長スピードが鈍化する
という構造が固定化されます。短期的には何とか回っていても、長期的には経営者依存が強まり、組織の自律性が失われていきます。
温度差を埋める鍵は「共通の判断軸」
部門間の対立をなくすために必要なのは、「仲良くすること」や「歩み寄りを強制すること」ではありません。本当に必要なのは、共通の判断軸を持つことです。
「この会社は何を大切にしているのか」
「品質と効率がぶつかったとき、どんな考え方で判断するのか」 これが明確であれば、現場も事務方も“会社としての判断”に立ち返ることができます。個人や部門の正しさではなく、「会社としてどうあるべきか」で会話ができるようになるのです。
MVVが社内を一枚岩にする理由
その共通軸をつくるために有効なのが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)です。
- ミッション:なぜこの会社は存在しているのか
- ビジョン:どんな状態を目指しているのか
- バリュー:判断や行動で何を優先するのか
MVVが明文化されていれば、「今回は品質を優先すべき理由」「今回は効率を取るべき背景」を、感情ではなく言葉で説明できます。部門間の衝突は“対立”ではなく、“判断プロセスの違い”として整理され、建設的な議論に変わっていきます。
まとめ
現場と事務方の温度差は、どの会社にも起こり得るものです。しかし、それを放置すると組織は分断され、経営者が常に間に立たなければならない状態から抜け出せません。
社内を一枚岩にするために必要なのは、全員が同じ考え方をすることではなく、「同じ軸で判断できる状態」をつくることです。
MVVを通じて共通の判断基準を持つことで、部門を超えて協力できる組織へと変わっていきます。
組織が強くなる第一歩は、価値観の違いを埋めることではなく、価値観をつなぐ“軸”を明確にすることなのです。