
多くの中小企業や成長過程の組織では、経営者が「現場の細部」と「経営判断」の両方に張り付き続けなければならない状況が生まれています。品質や納期、顧客対応を任せきれず、つい自らが細部を管理することで安心を得る。しかしその結果、肝心な経営判断に充てる時間やエネルギーが奪われ、事業全体の舵取りが後手に回ってしまうのです。
なぜ「経営者が現場に張り付く構造」が生まれるのか
一見すると「社員がまだ育っていないから」「組織が小さいから仕方ない」と思われがちです。
しかし根本には、判断や行動の基準が組織で共有されていないという構造的な問題があります。
現場で判断が揺れると、経営者のチェックが必要になります。営業で「受けてよい案件か」迷いが生じる。製造や開発で「ここまで品質を追求すべきか」基準が不明確。採用や評価においても「誰を仲間に迎えるべきか」迷いが生じる。
結果として、最終的な判断は経営者に集中し、組織全体が「経営者に聞かないと進まない」体質になってしまいます。
品質を保つための「個人依存」の限界
経営者が常に現場に張り付き、目を光らせれば、一時的に品質は守られます。しかしそれは、経営者の体力・気力・時間を犠牲にした脆い仕組みに過ぎません。市場環境が変化し、人材が流動する今の時代、経営者の個人依存に頼った品質管理は長続きしないのです。
経営判断の遅れが「事業継続の難しさ」を招く
経営者が現場対応に追われると、
- 新規事業や投資判断の遅れ
- 採用・育成の戦略不足
- 顧客や市場の変化に対する後手対応
といった「経営の空白時間」が生まれます。これは短期的には目に見えにくいものの、数年単位で見れば確実に事業の持続可能性を脅かします。
根本的な解決は「MVV」による判断基準の共有
この構造的な問題を断ち切るには、経営者の頭の中にある基準を組織全体に共有することが不可欠です。そのための最も有効な手段が、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定と浸透です。
- ミッション(存在意義):何のために存在するのか
- ビジョン(未来像):どこを目指すのか
- バリュー(価値観・行動指針):どのように判断・行動するのか
これらを明文化し、日々の意思決定や評価にまで組み込むことで、現場は自律的に判断できるようになります。経営者は「全ての判断を自分で下す人」から「判断の軸を提示し、組織全体で意思決定を進める人」へと役割を転換できます。
まとめ
経営者が現場にも経営にも張り付かざるを得ない状況は、単なる「忙しさ」ではなく、組織の判断基準が共有されていないことに起因しています。個人依存の品質管理には限界があり、放置すれば事業継続そのものが危うくなります。
逆に、MVVを明確にして組織全体で共有できれば、経営者は経営判断に集中でき、現場も自律して品質を守れる体制が築けます。持続可能な成長を実現する第一歩は、「経営者の頭の中にある軸を組織に解き放つこと」なのです。